1/25の日経で下記のような記事が出ていました。
世界の自動車市場で日本車の存在感が低下している。先頭を走っていたつもりが、金融危機後の市場激変の中で台頭する新興国勢、復活した欧米勢を前に失速した。震災や洪水、円高ばかりが理由ではない。猛スピードで経営革新を進めるライバルに対抗するには「カイゼン」の積み重ねだけではもはや限界。日本車の再出発に向け、何が必要なのか。
これまで日本車が最強であったことの理由として真っ先に挙げられるのは「カイゼン」。それが限界に来ていると言います。
日本車が最も優れているポイントは品質でした。それは一つ一つの部品のレベルで品質を作り込んでいくカイゼンによるインテグレーション(擦り合わせ)の賜物でした。
昨年の米国市場では、韓国メーカー(起亜自動車)の自動車が品質で高い評価を受けました。また、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)は昨年の世界販売でトヨタ自動車を抜いて2位に躍進しました。起亜やVWも日本メーカーと同様にカイゼンを積み重ね、インテグレーションの妙を発揮できるようになったからなのでしょうか?
「擦り合わせ」の代わりに浮上するのが「組み合わせ」のクルマ造りだ。独フォルクスワーゲン(VW)は多くの部品で構成する「モジュール」をあらかじめ造り、玩具のレゴブロックのように自在に組み合わせる。現場の頑張りに過度に依存せず、標準化したモジュールを使うため「規模の経済がうまく働く」(独系コンサルティング会社ローランド・ベルガーの長島聡パートナー)。
どうやら、そうではないようです。インテグレーション型と逆の考え方を持ったモジュール型開発で成功をおさめたのです。
日本メーカーが得意とするインテグレーション型では、世界に対抗できないのでしょうか?
ただ新興国の市場規模が先進国を上回る時代に持続可能なモデルなのか。ホンダの伊東孝紳社長は「世界のパラダイム変化に合わせ事業のあり方を変える」と強調する。
日本メーカーもモジュール型に取り組んでいかなければ駄目だということのようです。
モジュール型の製品開発が上手くいっている例として、パソコン(PC)があります。特に15~20年ほど前に言われていたPC/AT互換機というアーキテクチャは、PCの自作をも可能とするほどにモジュール型を突き進めていました。今では、ほぼすべてのPCがPC/AT互換機のアーキテクチャをベースにしています。あのMacですら、ハードウェアそのものは他のPCと大差ありません。(代わりに、デザインとOSなどのソフトウェアで他社のPCと差をつけています。)
もう少しPCの話を続けると、1995年頃まで、日本のPCの過半数を押さえていたのはNECのPC-98シリーズでした。その頃既に世界の大勢を押さえていたPC/AT互換機とアーキテクチャの類似性はあったものの、あくまでNECの独自仕様であり、インテグレーション型による成功例であったといえます。しかし、Windows95の普及によってPC-98でなくても、世の中に出回っているソフトウェアの大半が使える時代になると、一気にPC-98のシェアは落ち、日本でもPC/AT互換機が普及しました。
PC/AT互換機が普及した理由は、なんと言っても安さでした。また、モジュール型でかつオープン型のアーキテクチャであったために、多くの日本メーカーがPC/AT互換機市場に参入して、パソコンショップに置いてあるPCの大半がPC/AT互換機になったということもあります。
モジュール型での製品開発は基本的に価格競争に陥りやすいという問題があります。アーキテクチャがオープンになっていればなおさら、クローズであっても、インテグレーション型と比べれば模倣がしやすいので、多くの企業が他社の良いところを自社製品に組み込めるようになります。そうなると、どの企業の製品を買っても一定の品質になることが多く、あとは価格での競争になっていきます。多くのPCメーカーが陥っているように、収益構造は悪化します。もしくは、PCにおけるAppleのようにデザインやソフトウェアで他社との差別化を図り、ニッチトップを目指すということになります。
ただ、一定の品質のものが安く、大量に供給されるということは、先に挙げたように新興国の市場規模の拡大という時代の潮流を考えれば、よりふさわしいことなのでしょう。PC市場においても、PC/AT互換機がなければ、これほどまでに世界中にPCが普及することもなかったと思います。
日本メーカーが今後どのような戦略をとっていくのか、引き続き注目したいところです。