前回の記事では、ITコーディネータ制度の成り立ちと現在の経済産業省の施策との関係について、さらにIT経営について触れました。
今回は、前回まで2回の記事で何度となく登場した「ITコーディネータ(ITC)・プロセスガイドライン」について書きたいと思います。
IT経営プロセスモデル
上図はITCプロセスガイドラインから引用した、IT経営プロセスモデルです。
ここで挙がっている、IT経営認識プロセス、IT経営実現プロセス、IT経営共通プロセスという3つのプロセス、さらに各プロセスを構成するフェーズについて、基本原則と実際のプロセスを定義したものが、ITCプロセスガイドラインです。
それぞれのプロセスについて、見ていきましょう。
IT経営認識プロセス
現在のITCプロセスガイドラインは2011年に定義されたVer.2.0なのですが、そこで新たに取り入れられたのが、このIT経営認識プロセスです。
このプロセスの目的は、経営者を先頭に全従業員が経営環境の変化に気づき、IT経営の必要性を認識することにあります。
IT経営認識プロセスは単発のプロジェクト的なものではなく、企業を「学習する組織」として成長させていく、半永久的なプロセスと言えるかもしれません。
変革認識フェーズでは、様々な気づきを集め、自社のビジネスモデルを踏まえて分析し、IT経営による経営改革と重要な業務改善の開始を決意します。
是正認識フェーズは、IT経営実現プロセスと並行で進め、比較的長期間になりがちなIT化実行プロジェクトの期間中に起きる経営環境の変化や、IT経営実現プロセスの進捗をモニタリングし、必要に応じて計画に是正を加えます。
持続的成長認識フェーズは、IT経営実現プロセスが終わり、新たなITの利活用が進む中で新たに起きる気づきや経営環境の変化を捉え、次の変革認識フェーズにつなげます。
IT経営認識プロセス全体で重要になるのは「気づき」。
様々な経営環境の変化、顧客や従業員その他様々なステークホルダーの声、他社のベストプラクティス情報、ITの進化などから得た気づき情報を集約、共有、分析し、必要なものを経営に取り込んでいくことが重要です。
そうすることで、IT経営の成熟度をスパイラルアップ的に向上させていきます。
IT経営実現プロセス
IT経営実現プロセスは、IT経営認識プロセスの変革認識フェーズの成果を得て、新たなITシステムの構築及びITサービスの利活用を実現していくプロセスです。
ただ、いきなりITを導入するのではなく、経営戦略をしっかり策定してから、必要なITの導入を図ります。
また、IT経営認識プロセスの是正認識フェーズが並行で実行されており、必要に応じて実行内容の是正や中止の判断が行われます。
経営戦略フェーズは、策定、計画・準備・実行、評価と、IT経営実現プロセスの全体に関わります。
IT化実行プロジェクトは、IT戦略策定フェーズ、IT資源調達フェーズ、IT導入フェーズ、ITサービス活用フェーズから構成されます。
全体的に、ITシステムの新規開発をウォーターフォールで行うことが前提の記述になっている点は否めません。これは、ITCプロセスガイドラインも本文中で認めてます。
クラウドサービスの導入や、システム開発においてもアジャイル型プロセスの採用など、適宜カスタマイズすることが求められています。
昨今のリーンスタートアップなど、必要最小限のサービスをスピーディーにリリースし、順次改善・拡大していくという考え方とも、親和性は高いとは言えないでしょう。
とはいえ、ITCプロセスガイドラインで述べられていることは、経営を考え、経営にITを活用していくという中では、基本的(ある意味古典的)な考え方を網羅しているとも言えます。
そうした基本をマスターした上で、実際にどのようなITC活動を行うかは、各個人のその後の研鑽によるのではないかと思います。
また、ITコーディネータ協会でも、イノベーション経営プロセスガイドラインという新たなガイドラインを策定しています。(↓この本ですが、帯には野中郁次郎氏の推薦の言葉も!)
IT経営共通プロセス
最後に、IT経営共通プロセスは、全体のプロセスを進めていく上で共通的に必要となる、プロセス&プロジェクトマネジメント、モニタリング&コントロール、コミュニケーションについて、整理されています。
まとめ
ITCプロセスガイドラインの全般について、ざっと眺めてきました。
既に述べたことですが、全体的に少し古いかな?という印象がないでもありません。
ただ、時々の流行に流されず、出来るだけ基本に忠実に、オーソドックスにまとめ上げたという印象はあります。全体としてプロセスが巨大に見えるのも、企業やプロジェクトの規模に応じたカスタマイズを前提とするならば、理解出来るところです。
まずは、このITCプロセスガイドラインで基本的知識を得て、ITコーディネータ資格の維持・更新には毎年の知識習得が必要ですから、その中で新たな知識を常に吸収・活用していくということだと思います。