ITコーディネータとしてのAIの取り組み方を考える

11月から一般社団法人ITC-Pro東京の理事に就任することになりました。
ITC-Pro東京は設立当初から関わっているのですが、最近はいろいろと多忙で何の役にも立っていなかったのですが、AI・IoT・RPA推進ということでお声がけいただいた次第です。

ITコーディネータとしてのAI、そしてIoTとRPA

ITコーディネータ協会ではAIクラウド研修の講師として、昨年から延べ100人以上の主にITコーディネータの方にAIとは何か、何に使えるのかなどをお伝えしてきました。受講後のアンケートを見てみると、研修を始めた当初はAI自体に対する興味は満たせたけれども、自分の仕事に役立つかというと・・・という感じが多かったように思いますが、最近は仕事に役立てられそうという回答が増えてきました。

ITコーディネータはコンサルティング的な職種なので、実際に現場導入して役立つというよりも一足早く自分の仕事に役立てられそうというのはあると思います。でも、本当のところはどうやって現場導入が進むのだろう。そんなことを考えています。

研究から入るのが王道?

特にAI・IoTについては、研究から入るのが王道かと思います。実際に使えそうなデータを持っているとか(蓋を開けてみると足りないということが多いのですが)、AI・IoTを活用できそうな具体的ニーズがあるとかいうと、では実際にやってみようとPoCくらいやってみて、そこでAIだとデータが足りないとか精度が出ないという壁にぶち当たります。IoTでもどこにセンサーを付ければ良いのかとか、取ったデータをどう使えば良いかとか、そういう話になります。

そこで取り組み自体を止めてしまうこともあるし、もうちょっとやってみようということで研究が始まります。研究といってもそれほど高度なことをするのではなく、公開されているAIのアルゴリズムをいろいろ試してみるとか、データをためる+見える化くらいで当面進めつつ・・・とか、そういう試行錯誤レベルです。

ただ、そういう活動をできる、そもそもそれをやろうと思う企業はどの程度あるのか。特に中堅・中小企業ではどうなのか。

パッケージ化されたAIを待つ

もう一つ考えられるのは、AIそのものを導入するのではなく、普通にITパッケージを導入したらそこにAIが組み込まれていたというパターンです。iPhoneのカメラ機能には機械学習が組み込まれているし、SalesforceにはEinstein、AdobeのグラフィックソフトにはSenseiといったように、AIが組み込まれつつあります。つまり、AIを導入しようということではなくても、自然にAIの恩恵を受けることができるわけです。

また、今のRPAはそれほどAIが入っているという感じはなく、画面を自動操作するツールという域は超えていないように思います。しかし、RPAツールが進化したり、AIと連携することになれば、また違った活用方法につながるでしょう。

AIはITの正常進化である

私は常々、AIはITの正常進化だし、第3次AIブームの中核技術である機械学習は数年すればITの一般技術になると言っています。ITはさまざまなコトを自動化してきましたが、AIが入ることで今まで自動化できなかったコトが自動化できます。例えば、コグニティブ技術を使って、今まで人間の目で見なければ分からなかったコトを認識できるようになったり(モノをコトとして認識する技術としてはコグニティブだけでなくIoTもあると思います)、人間の長年の勘が機械学習のモデル化されたりという方法で、ITの守備範囲が広がるわけです。

また、第1次、第2次のAIブームで生まれたAIは、その後はコンピュータサイエンスの基礎になったり、誰もが使うITツールに変わったりしてきているので、第3次ブームも同様でしょう。10〜20年経てば第4次ブーム、第5次ブームも到来するのではないでしょうか。

自ら守備範囲を広げるか、広がるのを待つか

AIやIoTによってITを使ってできることが増えていく、守備範囲が広がっていくのは間違いありません。そこで、守備範囲を自ら広げて先行者利益を得ようとするか、守備範囲が広がるのを待ってコモディティ化された恩恵を安価に受けようとするかは経営判断でしかありません。

先行者利益を得るためには、当然ながら研究や試行錯誤のコストは負担する必要があります。そのコストを負担できるか否かがAIをいち早く導入できるかどうかの鍵となります。ここでのコストは、単にお金ではないかもしれません。粘り強く取り組める人材、そしてデータを蓄積するための時間です。

コモディティ化されたAIを使うという選択肢を採るなら、基本的には先行者利益をあきらめることになります。ただ、AIを何に使うかによりますが、コモディティ化されたAIでも基本的にはデータが必要になると思われるため、その蓄積はやはり必要で、データを持っている企業は多少の先行者利益にたどり着く可能性があります。(SalesforceのAIは企業がSalesforceにデータを蓄積していることが重要でしょうし、AdobeのAIはありとあらゆるクリエイターの集合知が活かされるので個々の企業のデータ蓄積は不要でしょう。)

ITコーディネータとしてAI経営戦略策定を支援する

このようにAIの導入は経営戦略次第といった側面が多分にあります。限られたリソースをいかに有効活用するかが経営の肝要だとするならば、AIにそのリソースを振り向けられるかは重要な経営戦略です。

ITコーディネータは、ITを闇雲に導入しない、導入の前にきちんと経営を考えるという職種だと思います。だとすれば、AIについても同様のことが言えるわけです。ITコーディネータとしてのAIへの取り組み方は、基本的にはそういう方向ではないかと思います。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。