チャットBotはどこで求められているのか

Italian Babylon Talk with Android app Photo Talks
Italian Babylon Talk with Android app Photo Talks / Fueneco

以前、チャットBotの可能性について書いたことがあります。

その後もWatsonを使った案件が進んでいることもあり、チャットBotの分野には興味を持ち続けています。

チャットBotは失敗する?

きのう、はてな匿名ダイアリーで、チャットBotは失敗するという投稿があり、話題を呼んでいるようです。
投稿したのは、ベンチャーキャピタルの社員さんで、最近持ちこもれる案件の3割はチャットBotが絡んでいるとのことです。

その理由として、3つ挙げられています。

  • ユーザーの利用シーンがない
  • そもそも自然言語処理の精度はそこまで高くない
  • 対話である必要性がない

自然言語処理の精度

まず技術的な話からということで、自然言語処理の精度についてですが、Watsonについて試している限りでいえば、どこまで期待するかによるとしか言いようがありません。
ユーザーの期待値と、提供できる技術レベルにズレがあることは間違いなくて、マーケティング的にさすがに煽りすぎと感じることもあります。

現時点で人間と見まがうばかりの会話ができるかというと、そんなことはありません。AppleのSiriや、日本マイクロソフトのりんなが流暢に会話しているように見えますが、大抵、答えられなくなったらごまかします。Siriは少し知的なジョークで、りんなは女子高生風のはちゃめちゃ感で乗り切ります。こうした、ごまかしの巧拙は重要で、それがうまいほど流暢な会話に見えます。ある意味でキャラクターにもなります。
ただ、ごまかしで乗り切って良い利用シーンと、そうでない利用シーンがあることは注意しておく必要があります。

だから、そういう技術的なことは完璧にできるのだという前提で、あとは何を喋らせるかのアイディアさえあればビジネスとして成功すると思っているのなら、痛い目をみることは間違いありません。

実際、私もある企業の内部でだけ使用するFAQシステムでWatsonの導入を行っています。WatsonはAPIが充実しているので、形は簡単にできるんです。ほら、チャットBotできたよーすごいよー、という。
でも、それが実用的になるかが問題で、実用的と思えるだけのやり取りと回答ができるか。つまりは精度をきちんと上げられるのかが課題になっています。
また、この導入プロジェクトでは、最終ゴールとしてエンドユーザーとの直接会話も念頭にあるのですが、一足飛びに進むものではないことについての理解は得ているつもりです。(だから、まずは内部でだけ使用するシステムにしています。)

利用シーンと対話の必要性

この2点については、私はまずユーザーインタフェースとして活用すれば良いと考えています。

「なぜ対話じゃないといけないのか?」という指摘には、こちらの例が一つの答えになるかもしれません。

LINEと同じ感覚で使っていれば、自動でChatterへの入力が済むとあって、施工スタッフからは人気を博しており、塩塚氏に至っては「ボット君」と呼ぶほどのお気に入りだ。
また、全国の発電所から発電所へと飛び回る施工スタッフに、レクチャーする必要がないほどシンプルな使い勝手も好評だという。

LINEと同じ感覚でできるというのは結構重要で、Webのフォームに入力するよりLINEの方が・・・というユーザ層が一定数以上いるように思います。誰もが、ITを使い慣れているわけではないのです。

チャットBotと、その脳みそ(人工知能)の部分は別に考えた方が良くて、一定の精度以上の成果が出せるようになった人工知能には、チャットBot以外のさまざまな可能性が生まれます。ロボットにつなげても良いし、対話ではないふつうのWeb画面からアクセスさせることも可能です。

逆に言えば、チャットBot自体は、ユーザインタフェースの一つに過ぎないということです。

まとめ

はてな匿名ダイアリーの記事には、賛成したような反対したような中途半端な意見になってしまいましたが、この辺が、チャットBotについて夢も見ず、あきらめもせず、現実的なところではないかと思います。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。