SoftBank World 2016の1日目の基調講演から、孫正義氏のセッションで感じたことなどを先ほど書きました。
午後のトップバッターに立ったのは、東京大学准教授の松尾豊氏。人工知能関連の著書・講演・取材対応などで、現在の日本における人工知能の代弁者とも言って良い方ではないかと思います。 氏の著書では、角川EPUB選書の「人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの」が特に有名で、読みやすく、人工知能の入門書として最適です。
松尾氏の講演をもとに、人工知能に関する現在の概況と、経営者がどのような取り組みを行うべきか、まとめます。
ディープラーニングは何を変えるのか
松尾氏はディープラーニングについて、人工知能研究における50年来のブレークスルーと説明しています。今回の講演でもその主張は同様で、概ね、先ほど紹介した書籍に沿った内容の講演でした。
画像認識の精度は既に人間を超えています。画像に何が写っているかを分類していく問題で、人間の誤答率は5.1%。人工知能は2015年の時点で4.9%、現時点での最高では既に3.6%にまで至っているということです。
画像認識の精度が上がると、状態の認識ができるようになります。状態の認識ができると、何が良い状態かが分かるようになるので強化学習も進みます。強化学習が進めば人工知能そのものの性能が向上します。そうして、いままでロボットにはできないと思われてきたことができるようになります。
人工知能がいままで実現できないと思われていた理由の1つが、コンピュータの性能が低いということでした。現在、もてはやされているディープラーニングの原点ともいえる技術は、日本の福島邦彦氏がネオコグニトロンとして1979年に考案していました。しかし、コンピュータの性能が低く、実現することができませんでした。現在ではコンピュータの性能は十分に高くなっています。さらに、訓練データが少ないという問題もあったのですが、インターネットの登場がそれを解決しました。
日本はどう戦うべきか
人工知能の分野は、認識・運動・言語に分けることができます。認識とは、画像や動画が何を対象としているのかが分かるようになることです。運動とは、ロボットの手足が思いどおりの動きを果たせるようになることです。言語とは、その文章が何を意味しているのか理解できるようになることです。
先に述べたように、まず認識技術が進歩しました。それに基づき、ロボットによる運動はかなりできるようになりました。いままでのような「ロボットらしい動き」ではなく、「人間らしい動き」ができるようになりつつあります。
言語についてはGoogle翻訳が思い浮かびますが、それは統計学的なもので、その文章が意味していること自体を理解できているわけではありません。しかし、認識技術によって画像を言葉で説明したり、言葉から画像を描いたりできるようになると、翻訳も直訳ではなく意訳ができるようになります。つまり、英語から画像を描き、その画像を日本語で説明すれば、翻訳したことになるというわけです。 認識技術がある意味で峠であって、その峠を越えたことによって、他の分野での進歩も進んでいます。
松尾氏は日本の戦い方についても言及しました。メールやスケジュール管理といった「情報路線」と、ロボットなどの「運動路線」の方があります。情報路線で英語圏が強いのは仕方がなく、日本は運動路線で戦うのが良いのではないかということでした。
いずれ情報路線と運動路線が高度に絡み合い、知能・機械がモジュール化し組み込まれた世界になります。そうすると、情報路線の勝者と運動路線の照射が決勝リーグを戦うことになります。日本は運動路線を磨いて競争力を持つことができれば、少なくとも決勝リーグに参加することができるというわけです。
経営者のトップダウンで進めるべし
人工知能を活用したサービスは、既に技術的にはできるということがたくさんあります。しかし、実際にどうやってデータを集め、どうやって習熟させるのかが重要です。その学習のさせ方自体がノウハウであり、競争力となります。だから、やるしかない時代になっているというわけです。
人工知能やIoTを活用すると、売上が5~10%伸びるという話ではなく、5~10倍というケタの話になります。
ただ、企業内で情報系は弱い部署であることが多く、しかも人工知能の研究となると、端からは何をやっているか分からないと後ろ指さされがちという危惧があります。 しかし、先に述べたように「やるしかない」分野になっています。それは、社内文化との戦いになるため、トップダウンでの意思決定が重要です。