今、読んでいる「ワークステーション原典」には、アラン・ケイによる晩餐会でのパーソナルワークステーションに関する歴史的考察が収録されている、と思いきや、それは収録されていなかったのである。
残念なことだが、代わりに、というわけでもなかろうが、歴史的論文の再録ということで、「パーソナル・ダイナミックメディア」が収録されている。
この論文は、非常に有名なもので、アラン・ケイが「コンピュータ」誌の1977年3月号に寄せたものだ。
ざっと、今から30年近く前に、ダイナブックと呼ぶ強力なパーソナルワークステーションを創造し、その使い道を列挙している。
今回、初めてこの論文をきちんと読んでみた。
やはり、ここで創造されている使い道の大抵は、現在のパソコンで実現されていることだった。
唯一、実現されていないのは、「だれにでも道具を作成できる機能」が、未だ貧弱と言わざるを得ないことだろうか。
アラン・ケイはSmalltalkの開発にも携わっていて、現在のオブジェクト指向技術に強い影響を与えたわけだが、「だれにでも」という点では、せいぜいVisual Basicがそれに近いという程度に過ぎない。
そもそも、Smalltalkは実用の面ではほとんど普及していない。(先にも挙げたとおり、強烈な影響は今でも与え続けている。)
正直言うと、今、この論文を読む価値は、少なくとも未来を予測するという観点では、歴史的資料の域を超えない。それは、30年も前の論文だから、やむを得ないのだ。
ところで、コンピュータの本質的価値については、さすがに興味深い考察が為されている。
“デジタルコンピュータは本来は算術計算を目的として設計されたが、記述可能なモデルならなんでも精密にシミュレートする能力を持っているので、メッセージの見方と収め方さえ満足なものなら、メディアとしてのコンピュータはほかのいかなるメディアにもなりうる。しかも、この新しい「メタメディア」は能動的なので(問合せや実験に応答する)、メッセージは学習者を双方向的な会話に引き込む。これは過去においては、教師というメディア以外では不可能なことだった。これが意味するところは大きく、人を駆り立てずにはおかない。”
さすがに鋭い。
「記述可能なモデルならなんでも精密にシミュレート」のくだりは、正にオブジェクト指向の萌芽を感じさせる部分でもある。