「声をかける」という報酬

「モチベーション・マネジメント」という本が電子書籍で出ていたので読んでいます。
まだ最初の方しか読んでいないのですが、思うところがあったので少し書いておこうと思います。

そもそも、いまなぜモチベーションがもてはやされるのでしょうか。それは、報酬原資の不足のためだというのが、この本の主張です。
高度成長の時代、会社はどこも右肩上がりで成長していたため社員に対して昇給や昇進という報酬を提供出来ていました。しかし、現在は成長している会社もあればそうでない会社もあるという状態です。昇給したくてもそのお金がない、昇進させたくても基本的には役職は減らす方向にある。だから、報酬の原資が不足しているというわけです。

お金や役職に代わる報酬って何があるのかというと、それがモチベーションです。
人間というもの、お金や役職といった物質的な欲求充足の方法には上限がありますが、モチベーションのような精神的な欲求充足は無限に受け入れられます。

では、モチベーションという報酬はどうやれば与えることが出来るのでしょうか。
ひとつは「その社員がやりたい仕事を与える」ことがあります。会社の寿命は人の職業人生よりも短いとすら言われる時代なので、職業人生を生き抜くためのキャリア形成に沿った仕事を与えるとか、もともと本人の個性としてやりたいと思っている仕事を与えるという方法です。

しかし、会社というものはなかなか全社員に対して「やりたい仕事」を与えられないという現実があります。そこで他に考えられるのが「コミュニケーション」です。「この人と話をするとやる気が出る」といったタイプの人は必ずいるものです。私自身もそういう人になりたいと常日頃思っているわけですが、そういう人が会社の経営陣、管理職にいるのは、モチベーション報酬については無尽蔵の原資を持っているのと同じことです。本書では、そういう人を「モチベーションマネージャー」と呼んでいます。

また、モチベーションマネージャーが日頃、モチベーション報酬を与えることによって社員が奮起すれば、それが会社としての成果につながり、お金や役職といった不足していた報酬原資も増えることになります。

松下電器産業(現パナソニック)の創業者である松下幸之助さんは、社員が300人くらいまでの間は全社員の顔と名前を覚えて、日々30人ずつに声をかけ、1ヶ月で全員に3回ずつ声をかけるということをやっていたそうです。まさに、モチベーションマネージャーだったわけですね。

「声をかける」ことはコミュニケーション報酬の基本です。1人でも部下を持ったならば、面倒がらずに声かけをやってみると良いのではないでしょうか。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。画像認識モデルを活用したアプリや、生成AIを業務に組み込むためのサービス「Gen2Go」の開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。