SIerの経営者はエンジニアに対するマーケティングをしなければならない

SIerのビジネスには、サービス業の側面があります。特にエンジニアが客先に常駐して仕事をする場合では、その傾向は顕著です。
だとすれば、SIerの経営者はサービス業から学ぶべきことがあるはずです。このエントリーでは、インターナルマーケティングについて説明します。

「インターナルマーケティング」とは、会社が従業員に対して行うマーケティングのことです。特にサービス業において必要とされています。
ちなみに、会社が顧客に対して行う一般的なマーケティングを「エクスターナルマーケティング」、サービス業において従業員が顧客に対して行うマーケティングを「インタラクティブマーケティング」といいます。

Nacmias Auto Sales, Service, and Repairs
Nacmias Auto Sales, Service, and Repairs / Nacmias Auto Sales, Service, and Repairs

サービス業では、なぜインターナルマーケティングが必要なのでしょうか。まずは、サービス業の特徴から探っていきましょう。

サービス業の特徴と、その対応策には、以下のようなものがあります。

  • サービスは形がない(無形性)
    →パンフレットを作成したり、従業員の良さを強調するなどして、有形化を図る。
  • サービスは品質が変動しやすい(品質の変動性)
    →品質管理を徹底する。マニュアルを作成する。採用活動を慎重に行う。
  •  サービスは生産と消費が同時に行われる(不可分性)
    サービス提供者などの雰囲気に気をつける。
  • サービスは在庫できない(消滅性)
    →需給管理が必要。
  • サービスの需要量は時期によって異なる(需要の変動性)
    →需給管理が必要。

対応策で従業員に関するところを太字で示しました。サービス業にとって、いかに従業員が重要であるかが分かると思います。

SIerにとって、商品はエンジニアそのものであり、優れたエンジニアには顧客から指名がかかることは少なくありません。引き抜きも活発であり、あるエンジニアが退職した途端に、そのエンジニアが仕事をしていた顧客からの発注が途切れてしまうということもあります。故に、SIerの経営戦略は極論すれば「いかに優秀なエンジニアを揃えるか」にかかってきます。

優秀なエンジニアを揃える方法には2つあります。1つは優秀なエンジニアを採用すること、もう1つは優秀なエンジニアを退職させないことです。このことについて、マーケティング的な発想を持ち込むとどうなるでしょうか。優秀なエンジニアを優良顧客と捉えれば、CRMの考え方が適用できます。CRMでは新規顧客の獲得コストは既存顧客の獲得コストの数倍かかるといわれます。優秀なエンジニアを採用するコストと、優秀なエンジニアを退職させないコストを比べると、やはり同じことが言えるのではないでしょうか。

インターナルマーケティングでは、こうした点に着目します。優秀な従業員(エンジニア)の退職率を下げるために、会社への満足度を高める方策をとる必要があります。例えば、給与体系や仕事そのもののやりがい、会社への不満を定期的に吸い上げ改善していく仕組みを構築するといった方策です。また、マーケティングで重要な領域の一つにブランド戦略がありますが、これも会社としてのブランドを構築することによって従業員の忠誠度やその会社で働く満足度を高めるといった方策につながります。会社に対する満足度の高い従業員が、顧客に対しても満足度の高いサービスが提供できるのです。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。画像認識モデルを活用したアプリや、生成AIを業務に組み込むためのサービス「Gen2Go」の開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。