SI業界の搾取の構造

SI業界は偽装請負で成り立っている。
そんなことを言い出すと、「当たり前だろ…、何を今更」と冷たく突き放されそうではあるが。

特に中小のSIerは、ほとんどがそれが生業で成り立っているとしか思えない。
中小SIerがやっているのは、技術者を雇い入れ(仕事があるときだけを雇用契約を結ぶこともある)、上位SIerと業務請負契約を結んで、その技術者を送り込むことだ。上位SIerというのが実際の顧客と契約しているプライマリーベンダーなら、2次請け止まりとなるが、実際はその上位、そのまた上位が存在して3次請け、4次請けとなることが多い。

さて、下位SIerが上位SIerとの業務請負契約のもとで技術者を働かせるのは、何の問題もない。まったくもって合法である。
問題は、業務請負契約といっても、実際の勤務形態が請負契約とは異なり、派遣契約のようなスタイルをとることだ。

この辺はもう基本知識になっていると思うが、業務請負の場合、仕事の指揮を執るのは自社(受託者)の社員である。契約先の上位SIer(委託者)とは一定の「業務」について請け負っているのだから、その業務をどうこなすかについての指揮は受託者が自ら為すものとされる。一方、派遣契約では、人を送り込むという契約であるから、仕事の指揮を執るのは上位SIer(派遣先)の社員となる。

偽装請負というのは、委託者(派遣先)が仕事の指揮を執る。本来なら派遣契約を結ぶところを、請負と偽装して契約を結ぶのである。
そのメリットは、委託者(派遣先)がいろいろな面で責任を回避出来ることである。例えば労働災害が発生した場合、派遣契約では派遣先(請負契約でいう委託者)も責任を負うが、請負契約では受託者(派遣契約でいう派遣元)だけが責任を負う。また、一定の業務が完了しない場合、派遣契約では派遣先の責任だが、請負契約ではこれまた受託者の責任となる。(他にもあるが、大抵は委託者側のメリットだ。)

こう見ていくと、顧客から仕事を取ってこれる上位SIerの威光に、人を出すことしかできない下位SIerが泣かされているという構図が見て取れる。

ただ、実際のところSI業界の偽装請負の構図は、若干異なっている。
SI業界の場合、労働災害はほとんど起きない。業務完遂責任も下位SIer(偽装請負の受託者=偽装請負業者)が負うというのは聞かない。
こうなると、旨みがあるのは偽装請負業者の経営者ということになる。
人を集めて上位SIerに送り込めば毎月マージンが手に入る。本来、SIerは開発環境の整備や、新人技術者の教育などのコストを負担するべきであるが、偽装請負の場合はその必要がない。そのままで送り込めるような技術者しか採用しないし、自社で開発したり新人を教育する気は毛頭ない。言葉は悪いが、単なる人転がし、差配師に過ぎない。

さらに、そのような偽装請負業者は何重にも重なることがあるから、顧客が出したお金が技術者に届く間に、どれだけのマージンが搾取されているか分からないのである。

それにしても、何故このような構造になってしまっているのだろうか。
こうした偽装請負業者を排除し、顧客と技術者を近づけ、偽装請負業者の取り分を折半すれば、顧客はより安く技術者の仕事を買えるし、技術者の報酬も高くなる。良いことずくめではないか。

顧客と技術者が直接契約するのは難しい。システムは技術者1人では作れないから、少なくとも5~10人、多ければ数百人でプロジェクトチームを作る。その全員と個別に契約するのは、顧客としては大変に困難なことである。
だから、そこにプライマリーベンダー(1次請け)の会社(SIer)が入るのはやむを得ない。

では、(1)プライマリーベンダーはなぜすべての技術者を直接雇用しないのか、(2)技術者はなぜプライマリーベンダーに職を求めないのか、という素朴な疑問が生じる。

長々と書いてきたが、この2点がSI業界を取り巻く様々な問題の出発点になるように思うのだが、どうだろうか。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。