企業に導入するシステムで、いわゆる業務システムといわれるものの導入が一巡すると、次に出てくるのはナレッジマネジメントです。
どんな企業でも、大抵、導入を検討したことがあるのではないでしょうか。それだけ、情報共有とか、技術の継承といったことが難しいのだと思います。いわゆる業務システムと違って、どうしても使わないといけないものではありません。そのため、情報が集まらなかったり、集まったとしても活用のしどころがないとか。知識そのものに関することなので、何となく一筋縄ではいかないような気がします。
言葉の定義
まず、言葉の定義をしておきましょう。
ナレッジ: 組織や個人が持つ情報やノウハウ
ナレッジマネジメント: ナレッジの共有化や明確化を行い、企業全体のナレッジを向上させ、生産性の向上に結びつける「経営手法」
ちょっと驚きかもしれませんが、ナレッジマネジメントは経営手法の一つなのです。
企業経営に必要な要素といえば、ヒト・モノ・カネですが、最近はそこに情報を加えるのが常識になっています。それだけ重要な情報を扱うのだから、たしかに経営手法と言って良さそうです。
暗黙知を形式知に変える
企業内部のナレッジは、大抵、暗黙のうちに個人や組織(一つの部署など)が体得しています。これは暗黙なので、その個人や部署で一緒に仕事をするOJTで伝わります。そのため、企業内でのナレッジの共有速度は遅く、別の営業所といった距離の離れた拠点間ではまず共有されません。
一方、文書などで明示されている形式知もあります。座学などのOffJTで一気に共有することも可能ですし、離れた拠点でも文書をメールや社内Webに掲載すれば共有することが出来ます。
ナレッジマネジメントにおいては、いかに暗黙知を形式知に変えていくかが重要になります。
SECIモデル
一橋大学大学院の野中郁次郎教授らが示した組織的知識を生み出すプロセスモデルとして「SECIモデル」があります。これは、ナレッジマネジメントの基礎理論として知られています。
共同化(Socialization): 個人の持つ暗黙知を共同体験などによって共有する。
表出化(Externalization): 共有された暗黙知を洗い出して、形式知化する。
結合化(Combination): 洗い出された形式知と結合して、さらに高度な形式知を創出する。
内面化(Internalization): 形式知を個人が実践することで、暗黙知として体得する。
ポイントは、形式知化されたナレッジをさらに高度にして(結合化)、もう一度暗黙知に戻す(内面化)ところです。そして、内面化によって体得された暗黙知から、また共同化、表出化と進み、形式知化していく。そういうサイクルによって、ナレッジをどんどん高めていくわけです。
暗黙知をどうやって形式知にしていくか
一旦、形式知化されてしまえば、文書などの形になるので、情報としての取り扱いが容易になります。
問題は、やはり暗黙知をどうやって形式知に変えていくのかではないかと思います。
野中氏らは、表出化の方法として、対話や共同思考、帰納法や演繹法といった論理思考を挙げています。
具体的には、熟練工の技能をマニュアル化する、プレゼンテーション資料を作って発表するといったことが挙げられます。
ここで作成されたマニュアルやプレゼンテーション資料は文書なので、正に形式知化された成果なのですが、より重要なのは、その文書を作るプロセス、出来上がった文書を元に議論するプロセスなのではないかと思います。
暗黙知は「暗黙」と言うだけあって、そのナレッジを保有している本人が、それをナレッジと気づいていないケースがあります。つまり、何らかの方法でナレッジを言葉にさせ、それを別の人が読む、聞くといった中で気づきを集め、議論していくというプロセスが必要なのです。
社内ブログ、社内SNSなど
表出化のための最初の一歩としては、社内ブログや社内SNSを活用することも考えられます。
表出化は、とにかく言葉として吐き出してもらわないと話が始まりません。玉石混淆で構わないので、どんどん考えていること、その日にやったこと等と言葉にしてもらう場所、社内文化を作る必要があります。
例えば、日報を社内ブログとして書いてもらうとか、社内SNSを整備してQ&Aをそこでやるといったことが考えられます。
次に考えるべきは、吐き出してもらった言葉の中で、何をナレッジとしてマネジメントしていくかです。社内ブログや社内SNSといった形でシステム化されていれば、Facebook風の「いいね!」のカウントや、閲覧数、全文検索のキーワードとヒットした記事といったデータから、マネジメントするべき有用なナレッジを見つけ出すことが出来るのではないでしょうか。
ナレッジマネジメントはシステムを作るだけではどうにもならない
このように見ていくと、ナレッジマネジメントの構築、整備は、何かソフトウェアを買ってきて、インストールして終わり、といった単純なプロセスでは何も動かないことが分かります。
ITでシステムを作るだけではなく、企業文化を作る、変えるといった気概で行うべきものであり、当然に経営陣の先導的な役割があってこそ、はじめて実現するものなのでうす。