SEは能力が高いほど損をする?

このブログのタグクラウドやエントリーのいくつかを摘まんでみると分かることだが、私のここ数年の生きざまはSEという仕事を生活の糧にしつつ、いかにSEでない仕事をするかという挑戦の様子である。

いま、私は無職という状態であって、そしてまたSEという仕事に生活の糧を得ようとしている。このような状況で私が考えるべきことは、「いかにSEでない仕事をするか」という部分をどのように解決するかだと思う。そもそもSEでない仕事とは何なのか。それが明確に定義できないのであれば、それは単なる青い鳥に過ぎないのではないか。

SEでない仕事をするというのは、逆に考えれば、SEをやりたくないということであって、その理由は何なのか。私はその理由について何を思っていたのだろう。今後のいくつかのエントリーで、その理由について個人的討論を行い、反論を試みようと思う。

SEは能力が高いほど損をするような気がする。

SI業界は人月いくらという収益構造で成り立っている。例えば月160時間で100万円という契約のSEがいるとして、だいたいプラスマイナス20時間はバッファを取るから、180時間以上働くと精算されて会社の収入が増えていく。SE自身は契約形態にもよるが正社員なら残業代という形で精算される(残業代はバッファがないのが普通)。いずれにせよ、長い時間働くほど収入が増えるというシステムである。

問題は、仕事量ではなく仕事にかけた時間で計算されるということだ。単純に言えば1つの仕事を1時間でやるより1.5時間かけてやれば、収入は1.5倍になる。これでは自分の能力を高めよう、頑張って仕事をしようというモチベーションが上がらない。

能力が高ければ元々の契約金額がアップするではないかという話もあるが、現実的には難しい。昇給よりも残業代で稼いだ方が手っ取り早い。

<反論>

たしかにSI業界の人月商売の構造は悪弊だ。しかし、自らの能力を高めなければ仕事そのものを失ってしまうかもしれないという危機感を持つべきだ。人月商売そのものも、永和システムマネジメントの試みのように変えていこうという動きがある。(会社間の契約としての動きはそうだが、会社と社員の間ではどうなっているのだろう。)

また、正社員としての立場で考えれば、年俸制で残業代なしという会社もある。ただ、これはホワイトカラーエグゼプションと同じ考え方で、自分で仕事量をコントロールできれば良い制度だが、そうでなければ単なるブラック企業になってしまう諸刃の剣ではある。(あれ?反論になってない?)

ひとつ間違いなく言えることは、システム開発のプロジェクトには様々なポジションがあって、ポジションが変われば報酬は変わりやすいということだ。同じポジションにいる間は能力を伸ばしても報酬には反映されにくいのだが、より上位のポジションに就けば報酬が上がりやすい。そして、上位のポジションに就くには能力を伸ばすしかない。

ただ、SI業界は下請け構造なので、自分が所属している会社の下請けヒエラルキーでの位置取りによっては、いかに能力が高くても上位のポジションに就けないことがある。そういう会社にいるとしたら、出来ることは2つ。自分の能力で開拓して会社の下請けヒエラルキーでの位置取りを引き上げる(これは若い小さな会社の方がやりやすいと思う)か、転職するかだ(独立でもいいが)。

<結論>

短期的に、能力UPを報酬に結びつけるのは確かに難しい。しかし、ある程度は中・長期的に考え、あらゆるオプションを含めて行動できれば、能力が高いことはやはり得なことである。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。画像認識モデルを活用したアプリや、生成AIを業務に組み込むためのサービス「Gen2Go」の開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。