資金調達~募集株式の発行(増資)による方法

以前、株式会社の作り方について書きました。

その株式会社が何か新たな事業を始めるとか、既存事業のさらなる拡大を図るとかで、大量な資金が必要になったとします。そういうときに株式会社が採れる方法として、銀行等からの借り入れ、社債の発行といった負債を増やす方法もありますが、純資産(資本)を増やす方法もあります。純資産を増やす方法でポピュラーなのは募集株式の発行です(一般的には増資と言います)。

募集株式の発行を行う際、その株式は新株を発行する場合と、自社株を処分する場合があります。募集株式の発行では、既存もしくは新規の投資家に資金を供給してもらい、その見返りとして株式を発行するわけですが、その株式は新たに発行して渡しても、もともと発行していた株式を買い入れて自社で持っていたもの(金庫株)を渡しても同じというわけです。

募集株式の発行の3つの方法

  • 株主割当
  • 公募発行
  • 第三者割当

募集株式の発行ではこの3つの方法がありますが、大きく分けると既存株主の利益を害さない方法と、既存株主の利益を害する方法の2つになります。株主割当は「既存株主全員に割当」しているわけですから前者であり、残る2つは既存株主以外に割り当てたり、既存株主の一部にだけ割り当てるので後者です。

非公開会社の場合

非公開会社(証券取引所に上場していないという意味ではなく、すべての株式に譲渡制限がかかっている会社。具体的なイメージは家族でやっている会社)にとって、新たな株主が現れることは大きな意味があります。譲渡制限をかけている理由は、知らない人に経営について口出しして欲しくないからそうしているのであって、それは既存株主の総意でもあります。

しかし、会社経営上は資金調達の必要があり、それが既存株主だけでは賄えないとなると、公募発行や第三者割当で新たな株主に期待するしかありません。新たな株主が現れると、当然にそれまでの出資割合が変わり、パワーバランスが崩れます。また、既存株主の一部だけを対象とした第三者割当でも、それは同様です。(支配面の不利益)
また、会社は資金調達を確実に行うために、募集株式の発行の際にその価額を低めに抑えて行うのが一般的です。それが株主割当なら既存株主全員がその価額で引き受けるので問題ありませんが、公募発行や第三者割当の場合は不公平だと思う既存株主も多くいます。(財産面の不利益)。

非公開会社が募集株式の発行を行う場合は、株主総会の特別決議が必要です。なので、既存株主にとっての不利益事由のない株主割当の方法を含めて、既存株主の意見を聞きます。これが原則です。しかし、原則があれば例外があるわけで、定款にあらかじめ定めておけば、株主総会の特別決議を必要とせず、取締役または取締役会に委任することが出来ます。(定款の変更には株主総会の特別決議が必要なので、原始定款の時点で決めているのでなければ、一度は特別決議が必要なのですね。)

しかし、そのまた例外があって、取締役や取締役会に委任している場合でも、上記のように既存株主にとって不利益がある公募発行と第三者割当の場合は、やはり株主総会の特別決議が必要となります。既存株主の保護はとにかく必要になっているわけです。

ちなみに特別決議は、議決権のある株主の議決権の過半数が定足数、その2/3以上の賛成が必要です。この「議決権のある・・・」の部分は意味のあることで、第三者割当を既存株主に対して行う場合、その既存株主はこの特別決議には参加できません。その既存株主は賛成するに決まっているのであり、真に意見を聞かなければいけないのはそれ以外の既存株主だからです。

公開会社の場合

公開会社は譲渡制限のかかっていない株式が1株でもある会社ということで、新たな株主の登場は予め想定されています。よって、非公開会社の場合のように株主割当以外の方法を採ったからといって、すぐに株主総会が必要になるわけではありません。そもそも公開会社での募集株式の発行は取締役会決議で決めるのが原則であり、それで良いのです。

しかし、公募発行や第三者割当の場合において、特に有利な価額で発行したら他の株主はどう思うでしょうか。いま、その会社の株式の価額が1株1万円だとして、8000円で公募発行や第三者割当をするとしたら?やっぱり、文句の一つも言いたくなります(財産面の不利益)。
そこで、公開会社でも、こうした有利発行の場合に限っては株主総会の特別決議が必要となります。

募集株式の発行に伴う現物出資

株式会社設立時の出資で現物出資という方法がありました。募集株式の発行でもやはり現物出資が可能です。また、設立時の出資では検査役による検査が必要であり、一定の事由の場合はそれが免除されるのでした。募集株式の発行の際でも免除規定はあり、設立時よりも緩和(少数免除とDES)されています。

  • 現物出資の総額が500万円以下の場合 (少額免除)
  • 現物出資を有価証券で行う場合
  • 弁護士等の証明を受けている場合
  • 現物出資で割り当てられる株式が発行済み株式総数の1/10以下の場合 (少数免除)
  • DES(デッド・エクイティ・スワップ、債務の株式化:負債の債権者である銀行がその債権を現物出資して株式の割当てを受ける。会社にとっては返済の必要がある負債が減る。銀行にとってはカネの貸し手から出資者に変わるので、取締役等を送り込むことが出来る。経営不振時の支援策の一つ)の場合

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。