ソーシャルサービスで常連を育てる6つのステージ

FacebookやTwitterなどのSNS、それにYouTubeやニコニコ動画などの動画サービスといった、ソーシャルサービスの売上は、広告やフリーミアムにおける有料顧客からのものです。そのため、売上を増やすためには、まずソーシャルサービスへの参加者を増やす必要があります。広告を見る人が増えなければなりませんし、フリーミアムはフリー会員のうちの数パーセントがプレミアム会員になるとおいうモデルなので、やはりフリー会員として参加者を増やす必要があります。

こうしたソーシャルサービスは、ユーザー自らが作るコンテンツで魅力的になっていきます。いわゆるCGM(Consumer Generated Media)というやつです。もちろん、ユーザー全員がコンテンツを作るわけではありません。コンテンツを作るユーザーと、見るだけのユーザーがいます。広告をクリックしたり、お金を払ったりするユーザーは見るユーザーですが、コンテンツを作る側に回るユーザーが増えないと、見るユーザーが増えません。それに、そもそも作る側のユーザーは熱烈な見るユーザーでもありことが多いでしょう。

つまり、ソーシャルサービスでは、まず見るユーザーを増やし、そこからコンテンツを作るユーザーに育てていくことが必要になるわけです。コンテンツを作るユーザーが増えてくれば、そのコンテンツを見るユーザーがさらに増え・・・といった好ましいサイクルが回り始めます。

CRM(Customer Relationship Management)というマーケティング手法があります。CRMでは顧客を常連にすることを重視します。常連客が最も利益に貢献することを知っているからです。8対2の法則ことパレートの法則は利益と顧客の関係にも通用します。80%の利益は20%の顧客が残すのです。だから20%の顧客になってくれる人を探し出し、育成していくのです。CRMでは顧客の育成過程を、見込み客→一見客→リピート客→支持者→信奉者→パートナーのように表現します。

このCRMの考え方をソーシャルメディアにおけるユーザーの育成に使えないでしょうか?
実は、ソーシャルサービスにおけるコンテンツ作成者への育成過程でも似たような表現があります。「グランズウェルソーシャルテクノロジーによる企業戦略」における「The Social Technographics Ladder」がそれです。コンテンツ作成者は自ら積極的に動いてもらう必要があるので梯子(Ladder)と表現しているのが面白いところです。

ステージ説明
Creatorsブログを公開する/ウェブサイトを公開する/オリジナルの動画や、音楽をアップロードする/記事や物語を公開する。
Critics製品やサービスをレーティングする、レビューする/他のユーザーのブログにコメントする/掲示板で発言する/Wikiのコンテンツに貢献する
CollectorsRSSフィードを購読する/ウェブページや写真にタグをつける/ウェブで投票する
JoinersSNSで自分のプロフィールを公開する/SNSを頻繁に利用する
Spectators他のユーザーのブログを読む/他のユーザーが投稿した動画を見る/ポッドキャストを聞く/掲示板で他のユーザーの発言を見る/他のユーザーのレーティングやレビューを参考にする
Inactivesソーシャルメディアに関わらない

(リクルートテクノロジーラボ著「ソーシャルストリームビジネス」より引用)

YouTubeを見てみましょう。動画の周囲には作成者への梯子がたくさん準備されています。
まずYouTubeで動画を見た時点でSpectatorsです。ユーザー登録すると「保存先」プルダウンリストからお気に入りやリストに登録出来ます。これはJoinesへの梯子です。「評価する」ボタンはCollectorsへ、他のソーシャルネットワークへの「共有」ボタン、「埋め込みコード」での自分のブログへの埋め込み、コメント欄はCriticsへの梯子になります。
以前は「動画でレスポンス」という機能がありました。あまり使われていなかったためか、機能がなくなったってしまいました。これはCreatorsへの梯子でした。YouTubeでもCreatorsに誘導するのはなかなか難しいようです。

CRMでは顧客育成の最上位であるパートナーとなると、ただ自社の商品を買うというだけでなく、自分の周囲に積極的に宣伝してくれたり、自社の商品に対する前向きなコメントで商品の進化をサポートしてくれるようになります。本来は商品の買い手である顧客が積極的な活動を示すことによって、売り手との境界線が曖昧になっていくのです。

一方、ソーシャルサービスではコンテンツの作成をユーザーに頼っているので、最初から買い手と売り手の境界線は曖昧です。しかし、ただ見るだけのユーザー(買い手)を、コンテンツを作成するユーザー(売り手との境界線が真に曖昧になった買い手)にするのはやはり容易なことではなく、CRMに学ぶべき点は多いといえるのではないでしょうか。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。画像認識モデルを活用したアプリや、生成AIを業務に組み込むためのサービス「Gen2Go」の開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。