特許ってどうやって取るの?

ここ数日、朝は(マーケティング以外の)経営関連のネタ、夜はマーケティング関連のネタというのが続いています。ぜひ、定番化させていきたいところです。

さて、今日の朝ネタということで、特許について詳しく見ていきたいと思います。以前、パティシエのケーキの話で触れた特許ですが、特許は「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち、高度のもの」である「発明」に基づく権利を保護する制度でした。

実施権

具体的にどのような権利があるのかというと、その発明を使った物を売ったり、その発明の方法で何かをやったり、その発明の方法で物を作ったりするということを、特許権者が独占排他的に出来るというわけです。特許された発明を使うことを実施といい、その権利を実施権といいます。実施権は通常実施権と専用実施権に分けることが出来て、その違いは・・・

通常実施権
その発明を実施することが出来る
専用実施権
その発明を独占排他的に実施することが出来る

つまり、実施権を「専用」出来るかどうかの違いです。

特許権が侵害されたら?

特許権が侵害されたら、差し止め請求権、損害賠償請求権、不当利得返還請求権、信用回復措置請求権といった救済策が認められています。損害賠償と不当利得は民法の規定なので、特許特有のものというわけではありません。

特許権侵害の代表例は実施権がないにもかかわらず、その発明を実施することです。しかし、それが認められるケースもあります。まず、試験・研究のための実施です。これは実施権云々というより特許権の効力が及ばない範囲だからです。
あとは、先使用によるものがあります。先使用とは、その発明について知らずに、その発明の特許出願よりも前から実施(準備を含む)をしていた人がいたら、いくら特許が成立したとしても「もう、それやっちゃ駄目!」というのは可哀想なので、引き続き使用(実施)を認めてあげようという制度です。この場合、その先使用者には通常実施権が自動的に与えられたという形になります。

特許を取る方法

特許は先願主義といって、先に出願したものが勝ちの制度です。なので、何か発明したらどんどん出願しちゃえ!というわけなのですが、やはりそのような気持ちが働いているのか、1日に1000件も出願されているようです。審査を行う特許庁も1日1000件も出されたらやってられない!というわけで、審査する数を減らす方策をいろいろ考え出しています。

方式審査

まず、特許を出願すると方式審査といって、必要な書類の不足はないか、書式の誤りがないか、といったチェックが行われます。これでまず減らしていきたいところですが、企業は弁理士さんを使って出願することが多いでしょうから、このレベルで落とされるものは・・・。

出願公開

方式審査をパスすると、その1年半後に自動的に出願内容が一般公開されます。出願公開といいます。
特許出願の不思議な制度その1。
不思議な制度なんだけど、理由もあります。特許の出願から実際に特許権が与えられるまで3年くらいかかっているのですが、3年ものあいだ秘密にされていたら他に同じことを研究している人が可哀想になります。せっかく何年も研究して発明したのに、出願してみたら「それ2年半前に他の人が出願してます」って言われたら、目も当てられない。そこで、1年半経ったらとにかく公開なのです。
でも、特許権が与えられていない状態で公開されたら、それを使っちゃう人が出てくるのでは?と思いますが、そこは出願人に補償金請求権を認めることでバランスを取っているのです。
ちなみに、出願公開の時期は出願人が希望すれば早めることが出来ます。

出願審査請求

さて、実は出願時の方式審査が終わると、特許庁のやることは出願公開をやるくらいで、あとは特に何もしません。・・・何もしないのかよ!これが特許出願の不思議な制度その2。
特許庁がここまでにやった審査は方式審査だけで、まだ中身は何も見ていない状態です。だから、その発明が本当に特許を取れるかどうかは闇の中。だから、特許を取れるかどうか中身の審査をやってよ!ということで、出願審査請求というのを出して、審査請求料を支払う必要があります。出願から3年以内に出願審査請求を出さないと、その出願はなかったことになります。これが、審査数を減らすために特許庁の考え出した最大の作戦であるわけです。

出願審査請求は出願人だけでなく、第三者からも請求できます。なぜかというと、例えばAさんがXという発明を特許出願したとします。出願から1年半が経って出願公開された出願を見たBさんが実はX´という発明をしていたということがあるわけです。するとBさんはXが特許を取れるかが気になります。もしXの特許が認められなければ、それより優秀なX´の特許ならいけるかもしれない。逆にXが特許を取ったら、X´が特許を取るのは無理だろうと思う。だからBさんはとりあえずXの出願審査請求をして成り行きを見守るわけです。

実体審査

誰かから出願審査請求が出されると、特許庁はやっと実体審査を始めます。そこで審査されるのは、まさに「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち、高度のもの」と言えるかどうかです。さらに、新規性(出願前にその技術思想がなかったか)があるのか、進歩性(その発明は容易に思いつく程度のものではないのか)があるのかといったことも審査項目です。
審査をクリアすれば、特許庁は特許査定を出します。特許査定とは「特許を認めて良いですよ」という通知です。審査に問題があれば、拒絶査定とその理由が通知されます。拒絶の場合、出願人は出願内容を見直し(補正)たり、反論をすることが出来ます。それでも拒絶された場合は、拒絶査定不服審判の請求が認められています。

設定登録

特許査定の通知があると、出願人は特許料を納付して特許権の設定登録を行います。ここまで来て、はじめて特許権が与えられたということになります。
ただ、実はまだ安心できないところがあって、「その発明に特許が与えられるのはおかしい!」と思う第三者が特許無効審判の請求を起こす可能性があります。この審判で無効とされた場合、せっかく与えられた特許は最初から何もなかったことになってしまいます。

ところで実用新案

特許と似た制度で実用新案というのがあります。実用新案は特許と違って「物」についてだけしか認められず、「方法」については認められません。しかし、特許が必要とする「高度のもの」という条件がないので、比較的簡単に取れます。
というか、実用新案は「比較的簡単」とかじゃなくて、出せば取れます。もちろん方式審査はありますが、実体審査がないからです。特許庁としては実用新案はとりあえず認めちゃうのです。実用新案が認められたものを特許に切り替えるための出願も可能(但し出願時点で実用新案権は放棄となる)だし、とりあえず実用新案権が得られれば実施権の設定も出来るので、まずは実用新案を出すという方法もアリです。

ところで、実用新案技術評価書という制度があります。実用新案権は実体審査なしで与えられるので、本当は誰でも思いつきそうなものなのに、ただ実用新案権を持っているからといって権利侵害だ!損害賠償しろ!という人が出てくるのを防ぐ制度です。実用新案権で損害賠償請求などをする場合は、実用新案技術評価を請求して実体審査をやってもらい、技術評価書を取得する必要があるということになっています。

この実用新案技術評価請求は第三者からも出来ます。しかも、この請求があると特許に切り替えるための出願が出来ないという決まりがあります。とすると、この制度は特許潰しに使われる可能性があるのです。つまり、ライバル企業が特許になりそうな実用新案を見つけ出して、特許に切り替えないように実用新案技術評価請求を出すというわけです。但し、この請求が出されると実用新案権者に通知が行くので、それから30日以内に特許出願を出せばOKということになっています。しかし、上述のとおり実用新案権を特許に切り替えようと特許出願すると、その時点で実用新案権は放棄になってしまうので、少なくとも実用新案潰しにはなってしまうのです。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。