「ステーシーズ少女再殺歌劇」

Stacy

モーニング娘。メンバー(道重さゆみ以外の全員)が出演する舞台「ステーシーズ少女再殺歌劇」を見てきました。会場は新宿の全労済ホール・スペースゼロ。ここにはハロプロとは関係のない舞台を見に来たことがあるので、2回目。

「ステーシーズ少女再殺歌劇」は大槻ケンジの小説「ステーシーズ少女再殺全談」が原作。私はその原作は知らなくて、前もってその小説を読むこともなく、いきなりこの舞台に足を運んだのですが、まぁ、なんというか、楽しい話ではない。まったくない。爽快感やカタルシスといったものもない。鑑賞後に残るのは、切なさとやりきれない感情だけ。

モーニング娘。くらいの年頃の少女が突然死んで、「ステーシー」とよばれるゾンビになってしまう。ステーシーは歩く屍として周囲の人々を噛み殺すという危険な存在なので、もう一度殺されて、165の肉片に切り刻まられねばならない。これを「再殺」という。再殺は前もって少女から指名された人が行うか、そうでなければ特別に組織された再殺部隊が行う。

少女が死ぬ直前には「ニアデスハピネス」という現象が現れる。常に笑っているので可愛いといえば可愛いのだが、もうすぐ死んでステーシーになってしまうという儚さに満ちている。そして、その笑顔は狂気のようにも見える。

そう、まさに狂気。ステーシーズは、そんな狂気のストーリー。

そういう話なのだけど、一言で言えばこれをなぜモーニング娘。がやる必要があるのか?と、思わないでもない。
私がモーニング娘。の舞台を最後に見たのは、2006年にまで遡って「リボンの騎士 ザ・ミュージカル」であった。その後、メロン記念日の「かば」や、三好絵梨香などが出演する「猫目倶楽部」といったハロプロ関連の作品は見たけれど、モーニング娘。メンバーが勢揃いなのは実に久しぶりだった。

さらに振り返れば、モーニング娘。がミュージカルというものに初挑戦した「LOVEセンチュリー」(2001年)であったり、その後の「モーニングタウン」(2002年)、「モーニング娘。の江戸っ娘忠臣蔵」(2003年)、「熱っちい地球を冷ますんだ」(2004年)と、毎年見ていた。その頃のモーニング娘。の舞台は、ハコがデカい(日生劇場、青山劇場、明治座に、リボンの騎士の新宿コマ劇場。そうそうたる会場ばかりだ)、ストーリーが浅い(単純な根性ものとか。熱っちい地球〜は環境問題を取り上げただけでストーリーはないに等しかった)、学芸会の延長(リボンの騎士は違うと思ったが)と、まさしくアイドルの舞台であった。ただ、それだけに多幸感に溢れていたし、アイドル好きとしてはそれで十分満足だった。

その頃と比べると、ハロプロ自体が上記のメロン記念日などを筆頭に小劇団との融合を始め、きちんと稽古を積んだ舞台をやるようになった。ハコは小さくなったものの、舞台としての鑑賞に堪えうるようになってきた。少なくとも、学芸会の延長ではなくなった。

そして、今回のステーシーズである。このストーリーを学芸会でやったら、この話を選んだ先生がご父兄からこき下ろされるのは必至だ。そんなストーリーを、モーニング娘。メンバーは十分に演じていたと思うし、決して学芸会ではなかった。中学1年生になったばかりのメンバーが2人もいるというのに!

少女再殺歌劇は3つのエピソードで構成されている。まずは1つめの「詠子」のエピソードを演じた田中れいな。彼女は22歳で学芸会をやる年齢ではないし、舞台経験も豊富だ。小悪魔的な容貌と笑い声は、ニアデスハピネスの可愛さと切なさを表現するのに十分だ。再殺されるシーンでは殺陣というほどではないものの、激しい立ち回りをやってのけたのは圧巻だった。

2つめのエピソードは、鞘師里保が演じた「モモ」。彼女は既にモーニング娘。のエース格としての活躍を見せているだけに、見応えのある演技だった。ただ、真ん中のエピソードということもあり、少々影が薄い印象があるのはやむを得ない。コメディの助けを得ず、本編だけで演じきったのはさすが9期といったところか。

3つめのエピソードは工藤遥の「ドリュー」。彼女は今年の3月まで小学生。まさに学芸会世代である。はっきり言って、演技はまだまだ。滑舌も今ひとつで、セリフが聞き取りづらい。しかし、ドリューがいてこそして、この舞台が少しだけ幸せな空気に包まれたのは間違いない。漆黒の中に赤と青という2つの鋭い光線がちりばめられた舞台で、唯一オレンジの温かい光源となった。(とはいえ、彼女が演じたのは殺し屋であり、ニアデスハピネスの段階で1度目の死を迎える前に「再殺」されてしまうのだが。)

このエピソードで、工藤遥とW主演といっても良い活躍を見せたのが石田亜佑美。彼女に与えられた役回りとその演技ははっきり言って意外だった。この娘はダンスだけじゃなかった!それが発見できただけでもこの舞台には意味があった。

そんなわけで、この舞台を見て、幸せな思いに浸ったり、明日からまた仕事を頑張ろう!といった活力が与えられることは決してない。そこにあったのは、美しさとその瀬戸際にある狂気というだけだ。モーニング娘。メンバーの演技はちゃんとしていたし、舞台として十分に鑑賞に堪えるものであったのは繰り返し述べたとおりだ。

しかし、願わくばモーニング娘。には多幸感あふれる舞台をやって欲しい。モーニング娘。は常に元気を与える存在でいて欲しいと思うのは、私だけではないはずだ。来年はそういう舞台をお願いしますよ。>事務所殿。

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この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。