立石の飲み屋で顧客満足を考えた話

このことをここに書くべきかは考えました。ここで取り上げるお店の迷惑にならないだろううかとか、そもそもこのブログに向いているのだろうかとか。
お店の名前を出さないこととして、書いてみようと思います。是非、お伝えしたい話ではあるし。

立石という場所

立石という場所をご存知でしょうか。葛飾区立石。京成押上線の京成立石駅があります。駅前には立石仲見世という味わいのある商店街があり、最近では呑兵衛の聖地として、テレビでも紹介されるようになってきています。

付近にはタカラトミーの本社があるように、おもちゃ関連の町工場が多くある場所です。町工場のあるところに飲み屋あり。だから、立石には小さな飲み屋さんがたくさんあります。ただ、そういうところだけに、町工場が休みの日曜日には休んでしまう飲み屋も多い。そういうところです。

私は、4月に葛飾区に引っ越してきて、立石にも歩いて行ける場所に住んでいます。

このお店

このお店に来たのは2回目で、1回目はこの間のサッカー男子のシンガポール戦、あの残念な引き分けを喫したあの日です。

もともとは食事をするのが中心のお店ですが、お酒やツマミになる一品料理も多く揃えています。カウンターばかりで10人も入れないであろうという小さなお店です。

で、今日は軽く一杯呑もうと思い、入ったのです。祝日でもしっかりお店を開けてくれていたし。

おばあちゃんが1人でお店を開けていたのですが、そうこうするうち大将を勤める息子さんと、その子供の女の子(お孫さん)が帰ってきました。3歳のかわいらしい女の子がいきなりお店に入ってきて、おばあちゃんのお手伝いでちょこちょこ料理を運んできてくれたりしました。3歳くらいだと喜怒哀楽が激しくて、さっき笑っていたと思うと、いきなり泣き出したりね。そんな感じ。

私のところにも料理を運んできてくれたのですが、しばらくしてから私とハイタッチして、おうちに帰って行きました。

おばあちゃんの言葉

お孫さんが帰ってから、お客さんも私1人だけになり、おばあちゃんと話をし始めたのですね。

立石の飲み屋はあと数年で終わり?

この辺(立石)が、あと数年ほどで終わってしまうのではないかということ。京成押上線は高架化を進めていて、京成立石駅付近も高架になるのです。しかも、葛飾区役所を移してくるという話もあるとのこと。だから、駅付近の飲み屋はなくなるところもあるだろうというのです。

月に1日しか休まないのは

このお店がほとんど休まないことを私は知っていました。しかも、食事も出しているので朝からお店を開けている。だから、なぜ休まないのかを聞いてみました。

「最近、立石がテレビにも出てくるし、それで遠くから来てくれるお客さんもいるから、休みの店ばかりじゃ悪いでしょ。だから、開けてるの」

なぜ、大根おろしのおろし汁を出すのか

いわしの丸干しを頼んだら、その時点で大根おろしをおろしてくれます。その際に出る余分な水気、おろし汁を別の器で出してくれます。それが何を意味するのか分からなかったので、聞いてみました。

「それは、そのまま飲むのよ。消化の助けになって健康になるんだって。健康になる方が良いわよね」

大根の種類で辛かったり甘かったりするので、いつも出すわけではないようですが、出せるものなら出してくれるようなのです。

うな重の山椒の袋が切ってある理由

それまでの、おばあちゃんの話が嬉しかったので、最後の食事もこのお店で食べることにしました。定食、丼物、しかも麺類まであるのですが、私が頼んだのはうな重。なんと800円。

うなぎの専門店ではないので、肝吸いが出てくるわけではなく味噌汁。ただ、インスタントじゃなくて、これでもかというほどの油揚げとキノコ。山椒はうな重の蓋の上に小袋が載っています。その小袋は既に切ってあるんですね。

「袋を切っておかないと、むりやり袋を破いてこぼしちゃう人がいるのよ。切るのも隅っこだけじゃなくて、上の方を全部切っておくのよ」

明日休みですいません

お会計は大将がやってくれたのですが、その際の言葉は。

「明日は休みなんですよ。すいません。明後日から開けますので、また宜しくお願いします」

月にたった1日の休みが明日だというだけなのですよ。おばあちゃんだけでなく、その息子さんも思いを共有しているのだなと思いました。

顧客価値創造の原則

ITコーディネータ・プロセスガイドラインで最も重視する原則に「顧客価値創造の原則」があります。顧客が何を望んでいるのかを理解し、顧客が満足できるような価値を創造することが重要である。と、定義されています。

このお店の思い、取り組みはどうでしょう。まずお店を開けることで、遠くから立石に来るお客さんの期待に応えています。そして、微に入り細に入ったおもてなし。上品とかじゃないのです。それは立石という場所に期待しているおもてなしではない。でも、そこに心を感じることの出来るおもてなしこそ、望まれていることではないでしょうか。

いまさら、立石の高架化事業をやめることはできない。木造家屋の密集地帯で、災害に弱いことから再開発の必要性も理解できます。だから、今のままのお店が残ることは難しいでしょう。お店の古さ、味わい自体も、立石の強みではありますが、街の再開発が終わった後でも残せるコアコンピタンスは、このおもてなしの心ではないかと思ったのです。それを、こうやって皆さんにお伝えしたいと思わせるだけの、心を感じたのです。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。画像認識モデルを活用したアプリや、生成AIを業務に組み込むためのサービス「Gen2Go」の開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。