CRM基礎講座 第7回 顧客の識別と情報収集

CRMにおいて最も重要なことは顧客を識別することです。CRMとは顧客との関係を維持し育成していくものですから、その対象が誰かが分からなければ何も始まらないのです。顧客識別の方法は、ポイントカードが代表例ですが商品や業態によってさまざまな方法があります。今後はSNSの活用も進むと思われます。

リードとプロスペクト

ある人が顧客となる最初はいつでしょう。これは業種、業態によって異なります。家や自動車といった高額商品やB2Bの場合は早めに顧客を認識することが出来ます。大抵は実際に購買をする前の段階で下見や資料請求のために接点が出来るからです。多くのCRMパッケージでは、接点の出来た見込み顧客をリード、さらに成約の確度が向上した場合はプロスペクトと呼び分けます。つまり、この時点で顧客を識別し情報収集を開始するわけです。こうした営業活動の領域は、 CRMの中でも特にSFA(Sales Force Automation)といいます。SaaSの代表的サービスであるSalesforce.comはSFAのSaaSとして有名です。

一方、コンビニや家電量販店といった比較的安価な商品の場合、リードやプロスペクトの段階は存在せず購買者が店舗に現れ、レジの前に立った段階で顧客となります。しかし、顧客には違いないのですが識別された顧客ではありません。その人の素性はよく分からないけど、お客様であることには違いないという状態です。先に挙げた高額商品などのケースでリードやプロスペクトといった状態が管理出来ているのは、最初に会ったときにアンケート用紙に記入してもらったり、 B2Bでは名刺交換をしたために、その人の素性を知っているわけです。

ポイントカード

コンビニや家電量販店ではCRMは出来ないのでしょうか。もちろんそんなことはありません。ここで活躍するのがポイントカードです。日本において初期のポイントカードは1958年にサービスを始めたグリーンスタンプです。家電量販店では1989年に始めたヨドバシカメラが元祖です。CRMという概念が発表されたのが1990年代初頭で、その頃からポイントカードをCRMに使うという試みが始まりました。

ポイントカードを作ると店舗での購入金額に応じてポイントが付与され、次回以降の買い物で使用することが出来ます。このポイントは値引きなのでしょうか。消費者の立場でみれば値引きに違いありません。ただその場で値引きしてくれるのではなく、次回まで待たねばならないというだけです。しかし、店舗経営者の立場では値引きと見てしまうと失格です。

何のために店舗はポイントを付与するのでしょうか。値引きの一環として扱い、次回の来店を促すという効果はたしかにあります。所期の目的はまさにそれでした。現在では、それはポイントを付与する理由のひとつに過ぎません。より重要な理由は、顧客の名前・住所・性別・年齢といった情報を収集出来るということです。しかも、一度ポイントカードを作ってもらえば同じ店舗で購入するときには同じポイントカードを使ってもらえる可能性が高いので、その顧客がどういう購買履歴を持ち、どういう購買行動をしているのかが分かるようになります。こうした情報を収集出来ることが重要なのです。

顧客サービスの一環として、他店もやっているからうちもやる式のポイントカードシステムが少なからずあるようです。他店はポイント付与をしつつ顧客の情報を集めています。付与するポイントは投資です。一方、顧客の情報を集めずポイントを付与しているだけだと、付与するポイントは単なる費用にしかならないのです。

ポイントカードを使って顧客の情報を集めたとしてもまだ問題があります。せっかく集めた顧客情報を活用出来ていないというケースです。情報を集めても使わない日本企業の割合は90%を超えるというリサーチ結果もあるようです。こうした企業は何のために情報を集めいているのか、考え直す必要があるでしょう。

ネット、SNSの活用

さて、ここまでポイントカードについて話を進めてきましたが、最近はポイントカードに依存しない顧客情報の集め方が出てきています。業種、業態にも依存するのですが、ネットサービスと連結する方法です。ECサイトでは会員登録をしないと買い物出来ないのは一般的なことです。リアルの店舗でも、携帯のメールアドレスを登録してもらってメールマガジンを配信するといったことが一般的に行われています。

また、TwitterやFacebookといったSNSを使用すると、比較的安価な商品でもリード(確度の低い見込み顧客)の段階で顧客を識別出来る可能性があります。こうしたSNSではユニークなアカウントを持ったユーザが、時に自社の取り扱う商品名を含むツイートやメッセージのやりとりをしています。まだ活用の方法は整理されていない現状ですが、可能性は大いにあります。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。画像認識モデルを活用したアプリや、生成AIを業務に組み込むためのサービス「Gen2Go」の開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。