補助金の申請支援もやっています

ときおりですが、補助金に関するご支援をすることがあります。
北九州市ではDX推進補助金があり、デジタル化枠、DXモデル育成枠、DXモデル枠があり、その申請のご支援や採択後の補助事業の伴走支援をしたりという感じです。

補助金の申請書類の記述内容

補助金の類型によって求められている申請書類の記述内容はいろいろですが、だいたい下記のような内容です。

  • 事業名と事業概要
  • 現状認識
  • デジタル化、DXに関する課題
  • あるべき姿
  • あるべき姿に到達するための課題
  • デジタル化、DXの全体計画
  • 今年度の取り組み
  • 期待される効果

これ以外に、補助対象事業の予算や、申請者の会社概要等も必要です。提出書類もいろいろあるので、それも期日までに準備しなければなりません。

DX推進補助金では、デジタル化枠だと上記のような内容をWord文書で作成するだけで良く、それ以外は5分間のプレゼン動画も必要で、PowerPoint等でスライドを作成しなければなりません。

ご支援では、現状認識から期待される効果までの一貫したストーリーをしっかり作ることに力を入れています。

補助金の審査をしたことはありませんが、審査する側の立場を想像すれば、

本事業において、市内中小企業が実施するDXの取組みを支援することにより、中小企業の生産性向上や新たな価値の創出につなげ、競争力の維持向上を図ることを目的とします。

という補助金の事業目的が達成できるような会社に補助金を出したいと考えているはずで、そんな事業が提案され、その内容に説得力があって、納得をしてから採択を決めたいのではないでしょうか。

審査員を納得させるためには、しっかりとした現状認識と、それに基づいて「生産性向上や新たな価値の創出によって競争力の維持向上」ができるような計画が必要です。さらに、その計画と整合性があり地に足の付いた今年度の取り組み(=補助対象の事業自体)があり、それがきちん進めば成果が出るだろう・・・。
と思えるような、ストーリーになっている必要があります。

現状認識とデジタル化やDXに関する課題

現状をしっかり認識し、それが説明されている必要があります。現状というのは現在の経営環境という意味で、できればSWOT分析を行ってから記載したい内容です。

強みがあるけど何らかの理由で顧客価値につながっていない(だから補助金でその阻害要因を除外したい)とか、新たな競合の出現を含む競合の動向など脅威があり、それを乗り切るために弱みを補強するか強みをさらに伸ばす必要がある(だから補助金でその取り組みを進めたい)といった課題設定であれば、ストーリーの発端としては充分です。もちろん、その課題の解決策が、デジタル化やDXによるものでなければ、補助金の趣旨に合いません。

審査員に、会社の現状を分かってもらい「たしかに困っていそうだ。これは助けなければ」、「ここで支援すれば、地域経済に好影響がありそうだ」と思ってくれるように説明します。審査員を自社の仲間に引き入れられるとベストです。

実は、一番力を入れたい項目です。この記載がしっかりできるなら、他は順を追って書いていけるはずです。

あるべき姿と到達するための課題

上記の課題認識を踏まえて、あるべき姿を描きます。先ほどの課題に対する回答であり、クロスSWOT分析を行ってから書けばなお良いでしょう。

先ほどの、「だから補助金でその阻害要因を除外したい」とか「だから補助金でその取り組みを進めたい」が回答なのですが、あとで今年度の取り組みという記載項目もあるので、「だから補助金で」よりも長い視野で書く必要があります。

補助金を使ってシステムを導入したいという話があったとして、その目的はシステム導入自体ではないはずです。システムを導入して変えたいことがあるはずなので、それを今後の展望を含めて書きます。

補助金の原資は税金であり、税金を自社のために投入してもらうわけだから、「生産性向上や新たな価値の創出につなげ」なければならないような、「競争力の維持向上を図」らねばならない喫緊の課題があるはずです。

全体計画と今年度の取り組み

次はあるべき姿に到達するための全体計画を書きます。5年程度の計画が必要になりますが、はっきり言って5年後のことなど誰も分かりません。とくにデジタル化とかDXの分野は進展が早いので、なおさらです。だから、ここで書いた計画どおりに進められるかは分からないし、その必要もありません。技術の進展も含めた経営環境の変化には柔軟に対応していかねばなりません。

ただ、全体計画がない中で目の前のことだけに取り組むのも良くありません。柔軟に変更していくこともあるだろうけれども、まずはあるべき姿に向かうための全体計画を作って、その中で今年度何をやるかを書ければ良いでしょう。そうすることで、補助対象の事業の位置づけが明確になるはずです。

また、今年度の取り組みの中に補助事業対象外のものがあれば、それは分かるようにしておきます。

事業名と事業概要

ここまでに課題を明確にし、あるべき姿を構築して、全体計画と今年度の取り組みを考えました。その今年度の取り組みのうち、補助対象とする内容が、事業名と概要になります。

この事業に対して補助金が出ることになるので、ここまで展開されてきたストーリーに対して、課題がちゃんと解決するのかが説明されている必要があります。
ここまでのストーリーと、事業が食い違っていたり、システムを導入しても解決につながらなさそう・・・と見えてしまうと、説得力がなくなってしまいます。

期待される効果

全体計画の完遂後の効果よりも、今年度の取り組み(特に補助対象の事業)で期待される効果を書きます。
定量効果は生産性向上であれば短縮できる時間の積み上げ、新たな価値の創造であれば売上や利益の見込を書きます。
定性効果は従業員のエンゲージメント向上や、会社のブランドの向上などを書くことになるでしょう。

と、いうことで一連のストーリーができあがりました。
あとはそのストーリーを事業計画書やプレゼンでしっかり伝えることができれば、きっと採択ということになるのでは・・・と思います。

このようなストーリーを一から作り上げていくことはなかなか大変です。
目的は補助金の申請でも、結果的には自社の経営についてじっくり考える機会になります。
もちろん、中期や短期の経営戦略・計画としても考えているわけですが、このような機会で改めて考えるのも良いはずです。
それで補助金の採択を受けられれば、経営変革の弾みをつけることになりますし・・・。
補助金ありきではなく、変革のための戦略立案を進める中で、補助金申請のための事業計画書が自然とできている・・・というのが、最も望ましいのかもしれません。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。