SIerにとってのCRM

私はいわゆるシステムエンジニアの仕事を10年ほどやっています。SIer(System Integrater:顧客企業のためにシステムを開発し導入する会社、導入したシステムの運用などにも携わる)2社に正社員として7年ほど勤務し、派遣も3年ほど経験しています。そんな自分の経験から、SIerにおけるCRMとは何だろうということを考えてみました。SIerが顧客のために導入するCRMシステムではなく、SIer自身のCRMです。

SIerというものの説明

SIerにとっての顧客はほぼ100%企業であり、個人を相手にすることはまずありません。典型的なB2B企業です。1本の受注は小さいものだと数百万レベルですが、大きなものだと数十億、数百億になります。顧客企業とは出来るだけ長い付き合いをしようとします。

新規のシステム開発を半年~1年ほどやると、そのシステムの運用保守で5年~10年と付き合い、その間に別の新しいシステムの開発を請け負ったり、もともと開発したシステムのリプレース案件を請けるというのが常道です。付き合いが長くなるにつれて、顧客企業の情報システム部のキーパーソンと仲良くなり、その企業の年間の情報システム投資額を把握し、それに合わせた提案をするといったことになります。そうやって他社の参入を防ぐ障壁を築こうとするわけです。

こう見ていくと、これは是非CRMをやらねばならない!というような気がしてきます。長い付き合いの中で情報を収集し、いつ、誰に対して、どういう提案をすれば受注に結びつくのか。こうしたテーマは間違いなくCRMの範疇です。

SIerと顧客満足度調査

多くのSIerは顧客満足度調査を実施しています。新規システムの開発完了後や、運用保守に入ると半期毎などに顧客にアンケート用紙(メールのこともあります)を渡し、顧客企業の責任者に記入してもらいます。日本企業では直接面談で話を聞くことも多いようです。(こういう面談に出向くのはSIerの閑職のオジサンが多いような気がしないでもない・・・。)

質問内容は、納品したシステムは満足行くものだったか、開発の過程でちゃんとスケジュール等の説明があったか、その説明は分かりやすいものだったかといった王道の質問から、ちゃんと挨拶していたか、積極的に提案していたかといったエンジニアの職務態度に関する質問もあります。あるSIerでは、ブラインドタッチをしていたかという質問があるらしく、ここまで来ると何が聞きたいのやら分かりませんが、いずれにせよこうした調査はしていたわけです。

ただ、こうした顧客満足度調査をして、今年は5点満点の4点を目指そうとかいう経営目標を掲げたとしても、納品されたシステムが本当に満足のいくもので、顧客企業の利益に貢献したのか。そのシステムを使うユーザは気持ちよく使えるものだったのかというと、はなはだ疑問です。現場のエンジニアは何とか動くものをつくるのが精一杯で、その後のことまで考えられないというのが正直なところではないでしょうか。少なくとも私の現場での10年の経験は、それが真相だったと思います。

真に顧客の満足を得る

なんだかんだ言っても、CRMの基本はその顧客にベストフィットしたサービスを提供することで顧客に真の満足をしてもらうことです。その結果として、信頼してもらい、長い付き合いをさせてもらうということだと思います。そのために、その顧客にとってのベストフィットとは何なのか、それを長い期間情報を集めて探っていこうというコンセプトです。

そう考えると、新規開発案件に関しては納品したシステムの出来が何よりも重要であるという、至極最もで何の衒いもない、そして面白くも何ともない結論が出てきます。おそらくこの業界の人はみんな分かってるはず。

では、そのためにはどうすればよいのでしょうか。それは次のエントリーで。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。