パティシエが丹精込めて作った独創的なケーキは、知的財産権で保護されうるのでしょうか?
知的財産権の種類
- 産業財産権
- 特許権
- 実用新案権
- 意匠権
- 商標権
- 著作権
知的財産権の保護について、日本では特許法で規定される特許権をはじめとして5種類の制度があります。これらの権利で保護されると、基本的にはその知的財産に関する独占的な効力を有するようになります。つまり、他の人が同じもの、似たようなもので商売を始めたりすると、「それは自分だけが使えるのだから、やめろ!」と言えるようになるわけです。
ちなみに管轄する省庁は、産業財産権は特許庁、著作権は文化庁です。
パティシエのケーキは特許を取れるか
これは取れません。残念です。理由は特許法での特許の規定によります。
特許は発明を保護するものですが、その発明とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち、高度のもの」とされています。パティシエが作ったケーキは、そのパティシエの腕の良さがなければ作れないものです。それは「技能」であって「技術」とは言いません。よって、パティシエのケーキはいくら独創的でも発明にはなりません。
特許と似た権利として実用新案というのがあります。これは、考案を保護するもので、考案とは「自然法則を利用した技術的思想の創作で、物品の形状、構造、組合せにかかるもの」とされています。やはり「技術的思想の創作」が対象なので、パティシエのケーキは駄目です。
特許との違いは発明の規定にあった「高度のもの」という文言がないことです。同じアイディアでも特許は取れなくても実用新案なら取れる可能性があるのです。違いは他にもあって、特許は「物」、「方法」、「物を生産する方法」が対象になりますが、実用新案は「物」だけしか対象になりません。
ところで、パティシエのケーキは特許や実用新案の対象になりませんが、工場で大量生産の出来る斬新なケーキなら、可能性があります。工場で大量生産できるということは、それは誰かの技能ではなく、技術の範囲にあるからです。
では、意匠権ではどうなのか
意匠権とは物の形を保護する制度なので、パティシエのケーキが独創的な形であれば保護されるのではないでしょうか?今度は意匠法を見てみましょう。
意匠とは「物品の形状、模様もしくは色彩またはこれらの結合であって、視覚を通じて美観を起こさせるもの」と規定されています。
「美観を起こさせる」なんて法律の条文があるというのも面白いのですが、たしかにパティシエのケーキは美観を起こさせる。(ちなみに、その美観は専門家ではなく一般需用者の美観とされています。「違いの分かる男」でなくても違いが分かるくらいじゃないと保護されないのです。)やっぱり、保護されるのではないでしょうか?
しかし、パティシエのケーキは意匠権でも駄目なのです。それは、意匠権の登録要件として意匠の工業性、意匠の新規性、創作非容易性、不登録事由、先願主義の5つがあって、その「意匠の工業性」を満たさないからです。工業性というのは、その意匠の物が反復、量産できるということです。だから、工場で作るケーキなら良いのですが、パティシエのケーキでは駄目なのです。
残るは著作権
特許権も駄目、実用新案権も駄目、意匠権も駄目となると、残る産業財産権は商標権ですが、商標権は商標を保護するものなので、パティシエのケーキの独創性を保護するものではありません。(そのケーキにつけた名前は商標権で保護される可能性がありますが、それは名前を保護しているだけであって、別の名前で似たようなケーキを作ることは自由になってしまいます。)
著作権で保護する著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と規定されています。
パティシエのケーキは、そのパティシエの感情が創作的に表現されているし、その見た目は美術的といえます。そうです、パティシエのケーキは著作権でなら保護されうるのです。
そして、著作権は模倣を禁止する法律なので、たまたま別のパティシエが同じようなケーキを作ってしまったら、それは両方保護となりますが、その別のパティシエが今回のパティシエのケーキを見て、模倣して作ったのであれば、「それはやめろ!」と言えるわけです。
実は・・・
このパティシエのケーキというテーマは、中小企業診断士試験の経営法務の問題として実際に出題されたものです。「中小企業診断士であるあなたのもとに、パティシエが訪ねてきた・・・」というストーリー仕立ての問題になっています。
なかなか面白い試験とは思いませんか?面白いと思われた方は、診断士の勉強を始めてみるのも良いかもしれませんよ。