製造業のサービス化に対応できるか

昨日の日経新聞ですが、1面トップは日立製作所が営業人員を2万人増やすという記事でした。

日立製作所は2018年度をめどに海外を中心に営業人員を2万人増やす。13万人の営業人員を活用し、従来の機器・設備販売から、AI(人工知能)やビッグデータ解析などの先端技術を駆使したコンサルティング型サービスの提供に経営の軸足を移す。製造業のサービス化は欧米企業が先行してきた。日立に追随する動きが国内の電機業界に広がる可能性がある。

製造業でもコンサルティングサービスの必要性

営業人員といっても、「コンサルティングサービスが出来る営業人員」という意味で(それが営業のあるべき姿だと思いますが)、エンジニアによる顧客対応を含み、また経営コンサルタントを指導役に迎えて人員育成を図るとのこと。ITのノウハウをベースにしたコンサルティングサービスを、製造業の会社が行っていくということでしょう。

製造業と一言で言っても裾野が広い業界なので、完成品を作る会社(メーカー)もあり、ネジ1個を作る会社もあります。その中で、日立製作所のように完成品を作り、エンドユーザと直接やり取りをするようなメーカーでは、物売りからサービスに移行していくのは時代の流れになっています。

IoTと人工知能

そのベースとなるのが、IoTと人工知能です。

一般企業や消費者の手に届けられるメーカーの製品に、様々なセンサーや動作の仕組みを作り、それをインターネットにつなげるというのがIoTの基本的な考え方です。

センサーからは非常に多くの情報が取得できます。その情報を元にして、人工知能が的確な判断を下すことができれば、それを製品の自律的な動作につなげることができるでしょう。また、日本全国、世界各国に納品された非常に多くの機器から取得できる情報を統合すれば、それはビッグデータとなり、製品の改善やマーケティングに使用することもできます。ビッグデータの解析においても、人工知能の活用が鍵を握ることになるでしょう。

IoTやビッグデータの使い方は、製品改善やマーケティングなどメーカー自身のために使う方法もありますが、エンドユーザのビジネスのために使うことも出来ます。ただ、実際にエンドユーザのビジネスにどう使えば良いかは決まった答えがあるわけではありません。場合によっては、エンドユーザの市場競争上、鍵を握るサービスが生まれる可能性もありますし、そこまで行かなくても、個別の対応が求められます。そこで、コンサルティング型のサービスが必要になってくるわけです。

人工知能の使い方にはノウハウが必要

IoTは基本的にはデータのやり取りなので、技術的な実現可能性は高いといえます。しかし、人工知能はそうもいきません。

人工知能が入ったから何でもできるというわけではなく、どういうデータを使い、どういう学習をさせ、その結果をどう使うか。それは人間がきちんと考えないといけません。そうしたプロセスまでを自動で考えてくれる人工知能は、まだ存在しないと言って良いでしょう。人工知能を使うためには、ノウハウが必要なのです。

そうしたノウハウを持っている企業はIT企業を含めても、まだ少ないのが実態ではないかと思います。

中小メーカーをどうするか

日立のように内部にIT部門を保有している大企業なら、記事のような展開も可能でしょう。しかし、そこまでの人員を有しない中小メーカーは、どう対応して、競争力を維持していくかという問題があります。そうした企業のITスキル、コンサルティングスキルの底上げについて、国を挙げた取り組みが必要なのかもしれません。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。