DXとIT経営ロードマップ

一昨日、DX(Digital Transformation)とはIT革命のラストワンマイルということを書きました。これは、DXという言葉は決して何か斬新なことを提案するキーワードではなく、これまでIT界隈で謳われてきたことの名前の付け直しであり、名前を付け替えてもう一度ブームを起こすことで、IT革命をさらに進める、進みを速めることが目的なのではないかと思ってのことでした。

IT革命という言葉の定義もあいまいなところがあるのですが、コンピュータ、インターネット、モバイル通信といったこの30年くらいに起きた変化を総称したものといえます。別の言い方では第3次産業革命です。
ただ、こうしたITの浸透が各産業において充分に行われたか?というと、まだまだそうではないのではないか。それは、政府や企業経営者の怠慢や、過去からのしがらみもあるかもしれないし、一方でITという技術が充分ではなかった側面もあるでしょう。

AIやIoTの技術進歩を受けて第4次産業革命が声高に謳われているけれども、まだ第3次産業革命の範疇と思われるクラウドとかテレワークといった技術が充分に活用されていない企業も多く、まずは地道にそこを進めましょうよという意見も見かけます。これは、そのとおりです。IT化が充分に進んでいない企業が一足飛びにAIだと言っても、それはかなり難しい。

ただ、IoTについては、いままでIT化が進みづらかった現場のIT化を促進する技術という側面があります。つまり、必要に応じてIoTの活用を進めながら、事業のデータ化率を上げていくことで、最終的にAIにつなげていくというストーリーが必要かと思います。

IT経営ロードマップ

経済産業省が2010年に出したIT経営ロードマップというものがあります。ITを活用した経営手法であるIT経営の進度として、「見える化」→「共有化」→「柔軟化」という枠組みを示しています。まず事業に関する情報をデータとして見えるようにすること、次にそのデータを企業内・外で共有化していくこと、そして事業をモジュール化して高付加価値領域に特化していくことが望ましいIT経営の姿というわけです。

2010年というといまから10年前ですが、ここで謳われていることはいまでも決して色褪せていないし、この10年間で進んだ消費者の行動指向のモバイルファースト化や、行政も積極的に取り組みつつあるデジタルファーストといった概念を外部環境の変化として取り入れれば、そこで見えてくるのは、いわゆるDXの姿なのではないでしょうか。

2018年に経済産業省が出したDX実現シナリオによれば、DXの目標は「新たなデジタル技術の活用による新たなビジネスモデルの創出」であり、あらゆる企業をデジタル企業に変革していくことです。これは、IT経営ロードマップでいえば事業のモジュール化と高付加価値領域の特化の段階である「柔軟化」のことです。ということは、DXを進めていくためには、まず自社が「見える化」、「共有化」、「柔軟化」のいずれの段階にあるかを判定し、次に段階に進むために着実に歩みを進めていくことが必要です。

このようにIT経営ロードマップを足がかりにDXを考えれば、視界を覆っていたDXという霧が晴れ、何に取り組むべきかが見えてくるのではないかと思います。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。2018年、株式会社ビビンコを北九州市に創業。IoTソリューションの開発・導入や、画像認識モデルを活用したアプリの開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。