さっきのアングルのところに、しばらく座っています。
目の前をいろんな人が通り過ぎます。通り過ぎる瞬間だけ、その会話か聞こえてきます。
カップルがいます。家族がいます。私と同じように一人の人もいます。
一人の女性が熱心にタンポポにデジカメを向けていました。風に揺れるタンポポが望む方向に向くのは一瞬です。
一人の男性がガイドブックのあるページに指を挟んで、前の人をぐんぐん追い抜いています。私はふと、「そんなに急がなくても良いのに」と独り言を言いました。
突然、おじさんが私に近寄って、「大きな毛虫が2匹もついとる」と、払ってくれました。
まったく気付きませんでした。
私は「すいません、ありがとうございます」と言って、一緒に払おうとしました。
人間というのは、不思議なものです。毛虫なんて何より嫌いな私ですが、別のこと、自分じゃないことを考えていると、もっとも身近な自分の危機に気付かないのです。
人のことをあーだこーだ言う前に、自分のことを省みよということかもしれません。
そうこう考えていると、また別の毛虫が私の着ているジャケットの袖を這っていました。
私は静かに払い落として、その場を後にしました。