マスメディアがソーシャルメディアでうまくやる方法

既存のマスメディアがソーシャルメディアに取り組む事例が増えています。取り組み方は、自ら積極的にソーシャルメディアやそのコミュニティの中に入っていくものから、ただ傍観しているものなど様々です。重要なのはいかにソーシャルメディアにコミットするか、そしてコミュニティを取り込むかです。

ニッポンのお茶の間を名乗るピーチク

ピーチクはテレビ局、ラジオ局ごとにページが用意されていて特定のハッシュタグ(TOKYO FMだと#tokyofmなど放送局の名前がタグになっている)を含むTwitterのツイートを集約して表示するサイトです。

言ってしまえば、TweetDeckやHootsuiteといったTwitterクライアントで特定のハッシュタグを検索条件にしたストリームを開いているのと同じ。ピーチクの画面からツイートすれば自動的に放送局ごとのハッシュタグがつくようになっているの、それが便利ということくらいでしょうか。ニッポンのお茶の間を名乗るわりにはサイトデザインはそうでもないですが、(古き良き?)お茶の間にあるテレビを見ながらの団欒をネット上に作り出そうとしています。

面白いのはスペシャルコラボ番組が存在することです。いまのところTOKYO FMの「クロノス」などラジオばかり4つの番組とコラボしています。クロノスでは、番組放送中にピーチクやハッシュタグの説明をしたり、寄せられたツイートを番組内で紹介する、出演者自身も放送中にツイートするといったことをしています。

放送局の視点でみれば、特にコラボしなくてもピーチクを見ていれば視聴者の生の声を聞くことが出来るというメリットがあります。いわば傍観の姿勢です。いくつかの放送局は自局の公式Twitterアカウントで、その放送局のハッシュタグを使ったツイートをしているので、薄く参加しているともいえます。

しかし、傍観の姿勢では得られるものは限定的でしょう。必要なのはやはり自ら積極的に乗り出すことです。ピーチクのコラボ番組のような取り組みは、クロノスの出演者のツイートを見ていると聴取者のツイートと会話が成り立っているものもあります。こうした取り組みこそ、その番組のファンを増やすことにつながります。顧客忠誠度(ウッフィーと言ってもよいかもしれませんが)の向上になるわけです。

革命×テレビの矛盾

2010年05月31日放送の「伊集院光深夜の馬鹿力」にて、TBSテレビ『革命×テレビ』に対する違和感について語られていた。「『革命×テレビ』がクソつまらない。バカじゃねぇの、あのやり方って思うんですよ。『俺に金をくれよ。孫さん。もっと面白いモノを作るよ』って思うんです」
「一番カオスだったのは、ネゴシックスがカブトガニが大量発生した海岸、みたいなのを中継していたんです。それで、最初はUstreamでカクカクとした動画で伝えていたんですけど、『実は、3日前にすごいことが起きたんです。それでは、ご覧下さい』って言うと、普通のハイビジョン映像でカブトガニが産卵するVTRが流れるんです。『そのカメラ、そこにあるんだ…』ってことじゃないですか」

「革命×テレビ」という番組がどうなのかはさておき、Ustreamの使いどころはどこなのだろうと考えました。

Ustream(ニコニコ動画でも同じ)の面白さは2つあります。(1)自分で何かの表現をするために既存のメディアを使えない人が映像を配信出来るメディアを得たということ。(2)その映像を見ながらツイートするというコミュニティ機能です。

革命×テレビの例で仮にハイビジョン映像がなかったとしても、それはUstreamじゃなくてテレビ電話での中継とかでも良いわけです。つまり、TBSは自らがメディアなのだから(1)の面白さは活用出来ません。例えば番組終了後にさらにUstreamで何かやるというのなら、まだ可能性がありますが、番組放送中に活用するのは難しそうです。

とすると、可能性があるのは(2)です。ただ(2)をやるには番組そのものをUstreamで配信しなければなりません。これはハードルが高い。実現すれば超英断ですが望み薄です。ならばテレビで番組を見ながらツイートすればいいかとなるのですが、だったらピーチクでいいじゃないかと。(ラジオの場合はradikoがあるのでインターネットで番組を聴くこととツイートすることの両方が満たせる理想的な環境があります。)

芸能事務所が自ら乗り出す

モーニング娘。やBerryz工房などが所属する芸能事務所であるアップフロントエージェンシーは、所属するアイドルが参加するTwitterやUstreamを積極的に展開しています。ファンに参加を促し、Twitterでファンに対してアイドル自ら質問を投げかけたり、ファンからの質問に答えたりといったコミュニケーションをしています。

この事例はUstreamの面白さの(1)と(2)の両方を満たしています。芸能事務所は出演するタレントは多く抱えていても、自らがメディアを持っていたわけではありません。そのためUstreamによって自ら活用出来るメディアを持てたという意味は非常に大きいように思います。

まとめ

繰り返しになりますがソーシャルメディアに関わるにあたり重要なのは、自らが参加しコミットすること、コミュニティを取り込むことの2点です。このエントリーでは既存のマスメディアについて取り上げましたが、それに限らず広範に当てはまることではないでしょうか。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。画像認識モデルを活用したアプリや、生成AIを業務に組み込むためのサービス「Gen2Go」の開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。