ABC 2011 Winter ドコモが戦うイノベーションのジレンマ

一昨日行われた、Android Bazaar & Conference 2011 Winterに行ってきました。午後から行ったので、最初に見たカンファレンスはNTTドコモです。

去年の春もドコモのカンファレンスから見たのですが、ドコモの山下氏のプレゼンは毎度哲学的です。丸山先生の基調講演も良いが、山下氏の方はAndroidをスマートフォンOSと限ってみた場合に基調講演として見られる内容があると思います。

去年の春と同様に、Scalability、Speed、Smartという3つのSでスマートフォンの世界、Androidの世界を表現していましたのですが、そうしたプレゼンの内容や、その後の質疑応答で感じたことがあります。それは、ドコモとしてはスマートフォンの世界で現状維持を持ち込みたくないのではないかと。

ドコモの思い、もしかしたら山下氏の先鋭的な思いかもしれませんが、その思いが端的に表れているのはiモードのとらえ方です。質疑応答でiモードをスマートフォンに持ち込まないのか?という質問がありました。多くのフィーチャーフォン(いわゆるガラケー)ユーザがスマートフォンに乗り換える起爆剤として、iモードの移行は意味を持っているに違いありません。

山下氏の回答はこういうものでした(以下意訳)。

「iモードで提供できるサービスの深さは現状では十分かもしれないし、見方によっては既に陳腐化しつつあるかもしれない。スマートフォン、たとえばiPhoneで提供できるサービスの深さとiモードのそれには違いが出ている。ドコモがスマートフォン(Android)にiモードを持ち込むんでも、それは現状維持に過ぎず、これから10年の成長に寄与するものではない。だから、やりたくない。

ドコモの技術力があれば、iモードをAndroidで動かすことは出来るだろう。SPモードでiモードメールを持ち込んだ実績もある。しかし、やりたくないのだ。出来ないではなくて、やりたくない。制約ではなく、意志。」

そして、山下氏はこう付け加えたのです。だから、CPの皆さんやディベロッパーの皆さんには一緒に乗り越えて欲しい。

ドコモにとってiモードは偉大なイノベーションでした。しかし、イノベーションのジレンマにはまってしまってはいけません。イノベーションのジレンマとは、偉大なイノベーションの後には、その成功体験に浸って次なる偉大なイノベーションが起きないというものです。スマートフォンとiモードの問題は、ドコモにとって、またCPやディベロッパーにとって、イノベーションのジレンマとの戦いなのでしょう。

この記事を書いた人

井上 研一

株式会社ビビンコ代表取締役、ITエンジニア/経済産業省推進資格ITコーディネータ。AI・IoTに強いITコーディネータとして活動。画像認識モデルを活用したアプリや、生成AIを業務に組み込むためのサービス「Gen2Go」の開発などを行っている。近著に「使ってわかった AWSのAI」、「ワトソンで体感する人工知能」。日本全国でセミナー・研修講師としての登壇も多数。